クラスタリングとは?高可用性用語と代表的なソフトウェアを解説

Webサービスやアプリを運用していると、

「もしサーバーが1台壊れたらどうなるんだろう…」

「アクセスが増えても落ちない仕組みってどう作るの?」

といった不安を感じることがあると思います。

そんなときに役立つのが クラスタリング(clustering) という技術です。

クラスタリングは、複数のサーバーを1つのグループとして扱い、

高可用性(HA:High Availability) を実現するための仕組みです。

この記事では、クラスタリングの基本的な考え方から、関連する用語、よく使われるソフトウェアまで、初心者にも分かりやすくまとめて解説していきます。

目次

クラスタリングとは?

クラスタリングとは、複数のサーバー(ノード)をまとめて1つのシステムとして運用し、

障害発生時にもサービスを継続させるための技術です。

平たく言えば、

サーバーのチームプレーでトラブルに強くする仕組み

とイメージすると分かりやすいです。

たとえば、1台のサーバーで運用している場合、そのサーバーが故障するとサービスは完全に停止します。

しかしクラスタリングを導入していれば、別のサーバーがすぐに役割を引き継ぎ、ユーザーに気付かせることなくサービスを継続できます。

なぜクラスタリングが必要なのか?

最近のWebサービスでは、次のような要件が当たり前のように求められています。

  • 24時間365日停止しないこと
  • いつアクセスしても快適であること
  • 障害時に即座に復旧すること

しかし、どんなサーバーやネットワーク機器も、故障の可能性はゼロにはできません。

そのため「単一障害点(Single Point of Failure/SPOF)をなくす」という考え方が非常に重要になります。

クラスタリングはまさにこのSPOFを排除し、

サービス停止を最小限にするための仕組みです。

クラスタリングの種類

クラスタリングには大きく分けて 3つの種類 があります。

サービスの特性や用途によって使い分けます。

① HAクラスタ(高可用性クラスタ)

最も一般的で、サーバーの故障による停止を防ぐためのクラスタです。

特徴:

  • サーバー間で役割を引き継ぐ(フェイルオーバー)
  • 障害発生時でもサービスを継続できる
  • データ同期が必要な場合が多い

よく利用される用途:

  • データベース
  • ファイルサーバー
  • Webアプリケーション

② HPCクラスタ(高性能計算クラスタ)

スーパーコンピュータのように、大量の計算を高速に処理したい場合に使われます。

特徴:

  • 計算タスクを複数ノードで分散処理
  • 科学技術計算・機械学習・シミュレーションでよく利用

用途は特殊ですが、AI需要が高まるにつれ注目が集まっています。

③ ロードバランシングクラスタ

複数のサーバーにアクセスを分散させ、性能と安定性を高めるクラスタです。

特徴:

  • 負荷を均等化し、個々のサーバーへの負担を軽減
  • ロードバランサーと組み合わせて利用

用途:

  • 高トラフィックのWebサイト
  • APIサーバー

HAクラスタの仕組みを深掘り

この記事では特に一般的で身近な HAクラスタ(高可用性クラスタ) に焦点を当てて、仕組みをさらに詳しく解説します。

フェイルオーバー(Failover)

クラスタの中で稼働しているサーバー(アクティブノード)が故障した場合、

待機中のサーバー(スタンバイノード)が自動的に役割を引き継ぐ仕組みです。

例えるなら、スポーツチームの「控え選手」が出場するイメージです。

フェイルバック(Failback)

故障していたアクティブノードが復旧した際、もとの構成へ役割を戻す動きです。

フローティングIP

クラスタ内でどのノードがアクティブになっても利用できるようにするための共有IPアドレスです。

フェイルオーバー時もIPは変わらないため、ユーザー側は切り替えに気づきません。

スプリットブレイン

クラスタ内のノード同士の通信が分断され、

お互いを「故障した」と誤認して、両方がアクティブになる危険な状態です。

複数のノードが同時にリソースを操作してしまうため、

データ破損のリスクが高まります。

これを防ぐために「フェンス(STONITH)」という仕組みがあります。

STONITH(フェンス)

“Shoot The Other Node In The Head” の略で、

スプリットブレインを防ぐため、問題があるノードを強制的に停止させる仕組みです。

文字面は物騒ですが、クラスタ運用には重要な安全装置です。

代表的なクラスタリングソフトウェア

クラスタリングを実現するためには、専用のソフトウェアが必要になります。

ここでは特に使われることの多い代表例を紹介します。

1. Pacemaker + Corosync(Linuxクラスタの定番)

Linuxで高可用性クラスタを構築する際によく使われる組み合わせです。

  • Corosync:ノード間の通信やクラスタ情報の共有を担当
  • Pacemaker:リソース管理・フェイルオーバーを担当

特徴:

  • 多機能かつ柔軟
  • 企業システムでもよく利用
  • オープンソースで無料

HAクラスタを学ぶなら、まず候補に挙がるソフトウェアです。

2. Keepalived(軽量で使いやすい)

ロードバランサーやWebサーバーなどでよく使われるクラスタ管理ツールです。

主な特徴:

  • VRRPを使ったシンプルなフェイルオーバー
  • 設定が比較的簡単
  • NGINXやHAProxyと組み合わせる構成が人気

「まず簡単にクラスタを組みたい」という場合に採用されやすいです。

3. Heartbeat(Linux-HAプロジェクト)

古くからあるクラスタリングソフトウェアで、Pacemakerと組み合わせて使われることもあります。

特徴:

  • シンプルで安定している
  • Pacemaker登場以前から利用されてきた歴史がある

現在はPacemakerの方が主流ですが、仕組み理解には役立ちます。

4. Windows Server Failover Clustering(WSFC)

Windows環境でクラスタリングを構築する場合の標準機能です。

特徴:

  • GUIで設定しやすい
  • Microsoft製品との連携が強い
  • SQL Serverクラスタなどでよく利用

Windowsベースの企業システムで重宝されます。

5. Kubernetes(コンテナ時代のクラスタ管理)

コンテナ技術が普及した今、「クラスタリング」と聞いてKubernetesを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。

特徴:

  • コンテナを複数ノードに分散・管理
  • 自動復旧(セルフヒーリング)機能
  • スケールアウトが容易

クラスタリングの概念を現代的に進化させた代表格と言えます。

クラスタリング導入のメリット

クラスタリングを導入することで得られる効果は多岐にわたります。

高可用性の実現

サーバー故障時でもサービスを継続できるため、ダウンタイムを大幅に削減できます。

運用の柔軟性向上

メンテナンス中でもサービスを停止する必要がなく、計画停止の負担が減ります。

スケーラビリティの向上

用途によってはサーバー追加による性能向上も期待できます。

信頼性が上がる

安定稼働はユーザーの信頼につながり、結果としてサービス全体の価値が向上します。

導入時の注意点

便利なクラスタリングですが、気をつけるべき点もあります。

  • 設計が複雑になりがち
  • ソフトウェアや手順の理解が必要
  • 監視・ログ管理など運用コストが増える
  • スプリットブレイン対策を必ず実施する必要がある

システムの規模や目的に応じて、

「本当にクラスタが必要か?」

「どの方式が最適か?」

を見極めることが大切です。

一問一答(簡単まとめ)

クラスタリングは個人サイトでも使う?

高トラフィックや重要なサービスなら検討価値があります。

クラスタとロードバランサーは違う?

役割は異なりますが、併用することで安定性がさらに高まります。

Kubernetesはクラスタの一種?

はい。コンテナ向けに最適化されたクラスタ技術です。

最初に学ぶならどれが良い?

Linuxなら「Pacemaker + Corosync」、シンプルなら「Keepalived」が学びやすいです。

まとめ:クラスタリングは “止まらないサービス” の基盤

クラスタリングは、システムを障害に強くし、サービス停止を最大限防ぐための重要な技術です。

特にWebサービスが成長したり、ユーザー数が増えるにつれて、

止まらない仕組み」を作ることは避けて通れません。

難しそうに聞こえる技術ですが、基本的な概念を理解すれば、

どのサービスにも応用できるシンプルな考え方です。

これからシステム構築やインフラに触れる機会がある方は、

クラスタリングの知識をうまく活用して、目指せ!安定運用。

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